相続における配偶者の居住権保護について、平成30年の民法改正により新たな制度が創設されました。配偶者居住権と配偶者短期居住権という2つの権利は、被相続人の配偶者が住み慣れた自宅に住み続けられるよう配慮した制度です。
第1部 配偶者居住権
制度の意義と性質
配偶者居住権は、居住建物を対象として配偶者に使用収益権のみを認める制度です。この権利は配偶者に限定された権利であり、譲渡することができません(民法第1032条)。また、配偶者の死亡によって当然に消滅し(民法第1036条第1項第3号)、相続の対象とはなりません。
例えば、被相続人所有の自宅に住んでいた配偶者が、建物の所有権ではなく配偶者居住権を取得することで、他の相続財産を子どもたちに多く残すといった選択が可能になります。
権利の発生
配偶者居住権は、以下のいずれかの場合に発生します(民法第1028条第1項):
- 遺産分割によって配偶者が取得するものとされた場合
- 遺言の目的とされた場合
権利の内容と制限
配偶者は居住建物を無償で使用・収益できますが、以下のような制限があります:
- 建物の用法に従い、善良な管理者の注意をもって使用・収益をしなければなりません(民法第1032条)
- 所有者の承諾なく、居住建物の改築・増築や第三者への使用・収益をさせることはできません(民法第1032条)
- 建物の修繕が必要な場合は、所有者に通知する必要があります(民法第1033条)
費用負担については、通常の必要費や固定資産税等の公租公課は配偶者が負担します(民法第1034条)。ただし、特別の必要費については所有者に償還を請求することができます。
権利の保護と対抗力
配偶者居住権は登記をしなければ第三者に対抗することができません。建物の所有者は、配偶者に対して配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います(民法第1031条第1項)。
権利の消滅
配偶者居住権は、以下の場合に消滅します:
- 用法違反等の契約違反があり、所有者からの催告に応じない場合(民法第1032条)
- 存続期間が満了した場合(民法第1036条第1項)
- 配偶者が死亡した場合(民法第1036条第1項第3号)
- 建物が滅失するなど、使用・収益が不可能になった場合(民法第1036条第1項)
第2部 配偶者短期居住権
制度の趣旨と内容
配偶者短期居住権は、相続開始から遺産分割までの間、配偶者が被相続人所有の建物に暫定的に居住することを保護する制度です(民法第1037条)。
この権利は、相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた配偶者が当然に取得する権利です。
権利の存続期間
存続期間は以下のいずれか早い時期までとなります(民法第1037条第1項):
- 遺産分割により建物の帰属が確定した日
- 相続開始時から6ヶ月を経過する日
権利の内容と制限
配偶者短期居住権に基づく使用については、配偶者居住権と同様の制限があります(民法第1039条)。建物の用法に従った使用が求められ、善良な管理者としての注意義務があります。
権利の消滅と原状回復
権利が消滅した場合、配偶者は建物を明け渡す義務を負います。また、以下の義務も生じます(民法第1040条):
- 相続開始後に付属させた物の収去義務
- 建物に損傷がある場合の原状回復義務(ただし、配偶者の責めに帰することができない事由による場合を除く)
まとめ
配偶者居住権と配偶者短期居住権は、配偶者の居住の安定を図りつつ、他の相続人の利益にも配慮した制度として評価できます。
ただし、これらの権利の取得や行使には様々な制限があり、消滅事由も法定されているため、実務上は慎重な対応が求められます。制度を有効に活用するためには、専門家のアドバイスを受けながら、適切な判断を行うことが重要です。
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